「堆肥」と「肥料」、畑(家庭菜園)や花壇・庭で植物を育てる際に
必ずと言って良いほど使っている資材だと思います。
では、堆肥と肥料の違いについて…知っていますか?
堆肥も肥料も同じ「肥」という字があるので
似たようなイメージを持っている方が多いと思います。
実際に堆肥と言われているものの中に
肥料効果があるものがありますし、逆もまた然り。
やや分かりづらい堆肥と肥料の違いを理解しておくことで
きっと植物を育てる際の役に立つはずです。
堆肥は土壌改良剤である
早速ですが、答えから。
堆肥は「土壌改良剤」です。
肥料は「植物の栄養」です。
堆肥であっても植物の栄養になる成分が含まれていたり
肥料であっても土作り効果があったりするので
そこが堆肥と肥料の違いをややこしくしている原因です。
堆肥は土作りのために使用するもの、
肥料は植物に栄養を与えるために使用するもの。
目的や役割をはっきりさせておくことが重要。
それを踏まえた上で、まずは堆肥について書いていきます。
そもそも堆肥とは何なのか?
堆肥という言葉の意味としては、樹皮や稲わら、
家畜糞などの有機物を堆積・発酵させたものを指します。
きちんと堆積・発酵処理された堆肥(完熟堆肥)であれば
糖類やデンプン、タンパク質などの易分解性有機物が
微生物によって分解されているため
土に混ぜ込んだとしても発酵熱を発生させたり
アンモニアガスを発生させたりすることはありません。
先ほども書きましたが堆肥の役割は土作りです。
土に混ぜても無害もしくは
ほとんど害が無いということがとても重要になります。
堆肥の役割は「土作り」
完熟たい肥を土に混ぜ込むことによって
植物が育ちやすい土壌環境を作ることができます。
具体的に見ていきましょう。
通気性・水はけを良くしつつ保水性を高める(土の物理性)
堆肥を混ぜ込むことによって土に適度な隙間ができます。
それにより通気性・水はけが良くなり植物が根を伸ばしやすくなります。
それと同時に堆肥に含まれる繊維質は水を保持しやすいので
土の保水性を高めることができます。
また、堆肥に含まれる腐植物質は土の粘土鉱物と結びついて
団粒構造のもととなります。
肥料もちを良くし土壌pHを安定させる(土の化学性)
堆肥は肥料を保持する力が強いため、
土に混ぜ込むことで保肥力を高め土壌pHを安定させます。
保肥力の向上と土壌pHの安定は
植物がバランス良く肥料成分を吸収するためには欠かせません。
土壌微生物を豊かにする(土の生物性)
堆肥は堆積・発酵処理をしているため
堆肥自体に微生物が多く含まれています。
堆肥を混ぜ込むことによって土壌微生物の数が増え、
種類も多くなります(多様化)。
土壌微生物が豊かになることによって
特定の土壌病害が蔓延するのを防ぎ、
植物が健全に育ちやすくなります。
土作り効果が高いのは植物性堆肥
堆肥は大まかに2種類に分けられます。
樹皮(バーク)や落ち葉、稲わら、もみがら、
剪定枝などを原材料にした植物性堆肥と
家畜糞を原材料にした動物性堆肥です。
堆肥投入の目的は植物が育ちやすい環境を整えること
(土作り)ですから、その目的に適っているのは
植物性堆肥になります。
植物性堆肥の土作り効果が高い理由は?
植物性堆肥の原料となる樹皮(バーク)や落ち葉、
稲わらなどには難分解性有機物のリグニンやセルロースが
多く含まれています。
これらが堆肥化することによって腐植物質が生成されます。
腐植物質は土と混ざり合うことによって
土壌内の粘土鉱物と結合して粘土腐植複合体を形成し
団粒構造のもととなります。
難分解性有機物由来の腐植は「耐久性腐植」と言って、
長期間土壌内に留まって土の物理性・化学性・生物性の
向上に寄与します。
動物性堆肥も土作りに効果が無い訳ではありませんが…
牛糞や馬糞、豚糞、鶏糞など家畜糞を原材料とした
動物性堆肥については、ある程度土作り効果が期待できるものと
ほとんど期待できないものに分かれます。
上に書いたとおり、動物性堆肥は原材料となる家畜糞を排出する
動物が食べているエサによって働きが異なってきます。
馬や牛など草食動物から排出される家畜糞由来の堆肥は
土作り効果にある程度は期待できます。
※ただし大量に投入するのはおすすめしません。
豚や鶏など雑食性の動物から排出される家畜糞由来の堆肥は
土作り効果はほとんど期待できません。
むしろ大量に混ぜ込むと植物の生育には逆効果になるので注意が必要です。
肥料とは植物の栄養となるもの
植物は太陽の光と大気中の二酸化炭素、土に染み込んだ水を利用して
光合成をしエネルギー(糖)を生み出しています。
根から吸い上げた土の養分と光合成で得たエネルギーを利用して
葉を茂らせ、花を咲かせ、実をつけます。
自然界の草木であれば自然の営みの中で
植物の生育に必要な養分が循環しているのですが、
家庭菜園や農業、園芸・ガーデニングにおいては
野菜を収穫することで本来土に還るはずだった養分を
持ち出してしまうため自然界のような養分の循環ができなかったり、
大きな花を咲かせたり立派な実を生らせるためには
そもそも養分が足りなかったりします。
それを補うのが「肥料」というわけ。
では、その肥料について書いていきましょう。
植物の生育に必要な16の元素(必須元素)とは?
植物の生育には16種類の栄養元素が必要とされています。
酸素(O)や水素(H)は水から、炭素(C)は大気中の
二酸化炭素から得られますが、それらの自然環境から得られる
必須元素以外において不足する分は肥料で補う必要があります。
炭素(C)… 多量要素
炭素(C)は大気中の二酸化炭素(CO₂)に含まれ、
光合成によって植物に取り込まれます。
タンパク質や糖質(デンプン)、脂質など
植物体を構成する重要な要素です。
水素(H)… 多量要素
水素(H)は水(H₂O)に含まれ
主に根から吸収されることで植物に取り込まれます。
炭素と同様に有機物の構成要素であり、
光合成の材料でもあります。
酸素(O)… 多量要素
酸素(O)は空気中に酸素分子(O₂)として含まれ、
植物は細胞の隙間から酸素を取り込んでいます。
酸素は細胞の呼吸に使われ、
呼吸によって得られたエネルギーを細胞の代謝や維持、
植物体の生長に利用しています。
窒素(N)… 多量要素
窒素は大気中に約78%と大量に含まれていますが、
植物は空気中の窒素を利用できません。
主にアンモニア態窒素(NH₄⁺)もしくは硝酸態窒素(NO₃⁻)といった
無機態窒素として根から取り込まれています。
※タンパク質やアミノ酸などの有機態窒素も一部取り込まれています。
窒素は植物細胞のタンパク質の主成分である他、
葉緑素や核酸の構成成分でもある重要元素です。
肥料として与える場合に最も植物の生長に影響が大きいのがこの窒素です。
リン酸(P)… 多量要素
リン酸は土壌内に含まれカルシウムやアルミニウム、
鉄と結合した状態で存在しています。
リン酸はATP(アデノシン三リン酸)および
ADP(アデノシン二リン酸)の構成要素で、
エネルギー代謝に大きな役割を持っています。
植物の根の伸長や開花・結実に関与しているため
非常に重要な要素と言えます。
カリウム(K)… 多量要素
カリウムは窒素やリン酸と並んで植物の三大栄養素と言われています。
細胞の浸透圧の調整やタンパク質やアミノ酸、ビタミンなどの合成に
関与しているため、植物にとっては非常に重要な要素と言えます。
カリウムはカルシウムやマグネシウムに対して拮抗作用があるため、
一度に効かせてしまうとカルシウム欠乏やマグネシウム欠乏を招きます。
カルシウム(Ca)… 中量要素
カルシウムは窒素・リン酸・カリウムの3要素に次いで
重要な要素とされています。
カルシウム肥料としては消石灰や苦土石灰、
牡蠣殻などの有機石灰として与えることが多いと思います。
カルシウムは細胞壁の材料になるほか、
植物体内での有機酸の中和などにも関与していて
植物が丈夫に育つために重要な要素と言えます。
マグネシウム(Mg)… 中量要素
マグネシウムはカルシウムと並んで中量要素と言われています。
マグネシウムを含む肥料としては苦土石灰が一般的ですね。
ちなみに「苦土(くど)」と言うのがマグネシウムのことです。
「石灰(せっかい)」はカルシウムね。
葉緑素の主成分であるため、マグネシウムが不足すると
光合成能力の低下に繋がります。
カリウムと拮抗作用があるため、
家畜糞由来の堆肥を大量に投入した場合にカリウム過剰となり
結果としてマグネシウム欠乏に陥ることがあります。
硫黄(S)… 中量要素
硫黄(イオウ)はアミノ酸やタンパク質、ビタミンなどの構成要素で
カルシウムやマグネシウムと並んで中量要素とされています。
植物にとって重要な要素ですが、
日本では土壌に豊富に含まれていることから
肥料として与える必要は無いとされています。
塩素(Cl)… 微量要素
塩素は光合成や気孔の開閉に関与する要素です。
日本では土壌に豊富に含まれていることから
肥料として与える必要は無いとされています。
鉄(Fe)… 微量要素
鉄は酸化還元に関与している物質です。
光合成に必要な葉緑素の合成に必要とされる他、
エネルギーの運び屋であるATPの合成にも関わっています。
鉄は土壌に豊富に含まれていますが、
土壌pHがアルカリ性に傾いていると植物が吸収できない状態になります。
その場合は植物性堆肥などを混ぜ込むことで
土壌酸度を調整します。
ホウ素(B)…微量要素
ホウ素(B)は土壌ではホウ酸(H₃BO₃)の状態で存在し、
植物の細胞壁の形成に関与しています。
アブラナ科の野菜ではホウ素の要求量が高く、
ホウ素欠乏によって芯腐れ症状が出ることがあります。
土壌pHがアルカリ性に傾いているとホウ素欠乏に陥りやすいので
植物性堆肥などを混ぜ込むなど土壌改良が必要となります。
また、土壌鉱物が劣化している可能性も考慮すると
モンモリロナイト等の粘土鉱物の使用も効果的です。
マンガン(Mn)… 微量要素
マンガン(Mn)は光合成や酵素の活性化に関与する要素です。
アルカリ性土壌ではマンガン欠乏症が発生しやすくなります。
マンガン自体が不足していることは少ないため、
肥料で補うというよりは土壌改良で対処するのが良いでしょう。
植物性堆肥と粘土鉱物(モンモリロナイト)を併用することで
バランスの良い土作りになります。
亜鉛(Zn)… 微量要素
亜鉛はタンパク質の合成や植物ホルモンの代謝に関与しています。
一般的な土壌であれば不足することはありませんが、
土壌がアルカリ性に傾くと植物が吸収することができなくなります。
また、リン酸の過剰投入によっても亜鉛が吸収されづらくなるため、
リン酸過剰にも気を付ける必要があるでしょう。
銅(Cu)… 微量要素
銅は酸化還元に関係する酵素を構成する成分です。
酸化還元に関係するということは、
光合成や細胞呼吸に関与しているということ。
植物の銅要求量は少ないため不足しづらいのですが、
土壌鉱物の劣化によっては発生する可能性もあります。
良質な粘土鉱物(モンモリロナイト)と植物性堆肥を併用することで
土壌改良をするのがおすすめです。
モリブデン(Mo)… 微量要素
モリブデン(Mo)は植物の必須元素の中で
最も要求量の少ない要素です。
酸化還元に関与していますが、
通常の栽培で欠乏症を起こすことは少ないです。
アルカリ性土壌では欠乏症が起こる可能性があるので、
石灰資材の撒き過ぎには注意が必要です。
肥料は有機物である必要は無い
植物の必須元素について長々と書きましたが、
見て分かる通り「元素」なので有機物である必要はありません。
植物はむしろ無機養分を主に吸収しています。
肥料は過不足無く与えるのが大切
肥料は植物の要求量に対して過不足の無いように与えることが重要。
決してたくさん与えたからと言って良い結果には繋がりません。
肥料効果のある堆肥を扱うのは結構難しい
堆肥は主に「土作り」を目的として利用されますが、
中には肥料効果があるものも存在します。
牛糞や豚糞、鶏糞などの家畜糞由来の動物性堆肥です。
肥料と比べると含有量は少ないのですが、
堆肥として大量に投入してしまうと肥料過多になってしまいます。
それぞれの堆肥の肥料効果をきちんと把握した上で、
施肥設計をしなければいけません。
…結構、難しいですよ。
堆肥と肥料の違いまとめ、目的をハッキリさせよう!
堆肥と肥料の違いについて書いてきました。
大切なのは、目的をハッキリさせることです。
堆肥の目的は「土作り」。
肥料の目的は「植物の栄養補給」。
目的がはっきりすれば、それぞれの資材の使いどころが見えてくるはずです。
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